静かなる駅

とても静かなその駅で降りると
駅前ロータリーで白鳥が死んでいた

まるで寝ているように丸まっていたが
覗き込んだら 息をしていなかった
お邪魔しましたと言って
街らしき方に向かって歩き出した

小さな店が軒を並べているが
人影は無かった

雨が頬にかかったが
生暖かく
春が息づいているのを感じた

旅をするのは自分の羽の裏側を
空気にさらすためだ

街が終わり橋をわたると
雑草がみっしりとした小高い山があり
濡れるのもかまわず寝そべった

眼前に広がる崩れ落ちそうな曇り空
鼻孔を草いきれで満たして
空と地面の間に居るだけにする

君の熱い息も忘れて
魂が揺らめきながら
あの厚い雲の上まで
たゆたう

生きるものの気配は
何も感じられない
静寂の中 心臓だけがコトコト動いていた