鍋にまつわる記憶


あれとこれとそれ
煮たらきっとおいしいね
彼女はそう言った

豆腐は煮すぎて
ふてくされる
魚は底の方で
ちりぢりになる
野菜は深緑に
泳ぎ回っている
つみれは何か秘密を
隠そうとして押し黙っている
牡蠣は物陰にひっそりと
隠れている

ぽん酢にはやっぱり
もみじおろしとワケギだね
彼女は訳知り顔でそう言った


僕の鍋にまつわる記憶
彼女の旺盛な食欲
スカートの湿った奥
白いブラウスから透けて見える
黒のブラと桃色に上気した肌
笑い声

そして
翌日彼女は首をくくった