天女とヤドカリ

天女は
木の技に忘れ物をしたようだった

するすると降りてきて
松の枝に 陽炎のように
引っかかっている薄物を
真白き指先で
熱心に ほどいて

片足を傷つけたヤドカリと眼があった
ヤドカリは卑屈そうにコソコソしていた
背負っている貝殻に
満足していなかったせいかもしれない
「最期を迎えようとしているのに
 こんなチンケなもの背負って…」

天女はもう息絶えそうなヤドカリを
たなごころに乗せ
玉虫色に光る薄物を羽織ると
微笑みながら天に昇っていった

ヤドカリは背負っている貝殻のことなど
もう忘れていた
ふっくらと暖かい手に包まれて
幸せだった
生まれてきて良かったと
思っていた