205号室

はっと思い出したとき
きゅうりは袋の中で 液体に変容していた
固体は崩れていった
私をあざ笑うかのように
美しい緑の 残像だけを残して
そして、ゴミ箱の中に消えた

205号室
張り付いた笑いの 私の遺物に囲まれて
静かに 暴れて
息をしたり 息を止めたり
実に忙しい

生きるということは 慌ただしくて
私の心を 置いていったりする

朝 坂道を下りながら
この路面に染み込んだ 命の歴史を
知りたいとおもい

夜 変幻自在の月に照らされて上る坂道は
賑やかな声で 追い越していく
子供達たちの「生」に
蹴落とされて うなだれる

205号室

思い切って買った花は もう萎れかけている
電気をつけずに闇の中で見る部屋は ぽつんとしている

時はつかむことができぬ速さで 脇をすり抜けていく

今が常に懐かしさをはらむ

205号室

いつかこの部屋に別れを告げる時のために
私の心の網膜に 目の前の全てを
日光写真のように
焼きつけておこう

鼻腔をくすぐる ほの温かい懐かしさのために