名前

しんと静まった夜の冷たい気体に
忘れられぬ人の名前という有機物を放つ

それは目には写らぬ波紋を生み続け
一旦壁にぶつかると
反復運動のように
私に向かって波を広げる

あっ きた
胸のあたりに

赤い尾をひいて
衝撃が尖って

息を吸うたび甘やかな
寂寥が
空っぽの肺を満たす

そして
深い藍色の虚無が
私の身体から
ゆっくり流れだす

明日、冷たい雨が
私の輪郭を包めばいい
心の中で ひっそりと祈る